あっこのブログ

おばちゃん探偵、法科大学院に学ぶ。

Date:2005.01.17(Mon)15:36 | Category:[未分類]

秘密のあっこちゃん調査ファイル:15歳の予感(5)

これは1994年に出版された、佐藤あつ子著「初恋の人、探します」(遊タイム出版)に収録されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

報告書では十川は東京の病院に勤務しているということだった。
すぐに手紙を出すと、折り返し電話が入った。彼はサチエの電話番号を覚えていてくれたのだ。
壊かしい声だ。全然変わっていない。あの、人を包み込むような話し方もそのままだった。
「どうしてここがわかったの~」
 声を聞いたとたん、この四年間の想いがせきを切ったようにあふれだしてきた。どんなに先生に会いたかったか、どうやって先生の居所を探しあてたか…。
 十川はサチエが話し終わるのを待って、
「今ならもう話してもわかるだろうけど」
 と前置きして、松山にいた当時の状況を話してくれた。
 当時、十川は「医療」 に対する矛盾に悩んでいた。
 松山の病院とは患者に対する接し方にも、医療自体に関する方針にも、まったく接点が見いだせないでいた。現場に身を置き、理想を貫こうとする十川と、まず利潤経営を考える病院側とでは、衝突することもたびたびだったらしい。
 信頼してくれる患者には応えてやりたかったが、実際にどうすることもできない非力な自分に、医者としての限界を感じてもいた。
 そんな行き詰まりを、若いサチエに話しても理解できるはずもない。
 そんな時、東京の病院から転勤の話がきた。
 東京でもう一度勉強してみるのもいいかもしれない。
 決心して単身上京していった。
 サチエには転勤前に電話を一本かけたきりだったが、そのうち落ち着いたら連絡しようと思っていた。
しかし東京と松山ではあまりにもテンポが違いすぎた。
慣れない環境で毎日の診察に追われ、自分への課題の追求にも必死で、どんどん連絡が遅れていく。そのうち時がたってしまった。
「もうあの子もお嫁にいっちゃっただろう」
 だったらそっとしておくのがいい。そう思ったのだ。
 十川が自分の感情をサチエに話してくれたのは、それが初めてだったかもしれない。
 今までは彼女が一方的に自分のことを話すだけの関係だった。彼女は彼女なりに一生懸命だったが、十川が仕事で悩んでいることまでは見抜けなかった。あのころの自分は、やはりまだまだ子供だったのだ。
 でも今は違う。大人の女性として、対等に自分を見ていてくれるのだ。
 うれしかった。四年間もの間凍りきっていた心の中が、どんどん溶けていくのを感じていた。
 十川はサチエに言った。
「いくら君が僕のことを探してくれているとわかっても、いい加減な気持ちでは電話はできないよ。
そんな気持ちで連絡すれば、相手に期待を持たせてしまうし、失礼だからね」
 その言葉は、サチエの四年間の苦しみを消し去っていた。
 調査を依頼して本当によかった。心からそう思った。
 半年後、彼が学会で広島まで来るということを知った時、迷わず会いに行こうと決めた。
「ちっとも変わっていないから、すぐにわかったよ」
 ふいに肩をたたかれ、驚いて振り向いたサチエに、十川はにっこり笑いながらそう言った。
 女として少しは成長したつもりなのに。もう少し気のきいたことを言ってほしいなあ。
 かわいくふくれっ面を作ってみせながらも、十川の全然変わっていない昔のままの笑顔を見ると、ほっとした。まず何を言うか、どんな顔をすればいいか、フェリーの上であれこれ考えていた計画も、すべてふっ飛んでいた。
 予約していたホテルにチェックインし、レストランへ食事に出かけた。
 ビルの最上階にあるそのレストランは、時間が早いせいもあってか、客はまばらだ。広島の市街地が見渡せる窓際の席に案内される。白いテーブルクロスに赤いバラが一輪。
 再会を記念して、ワインで乾杯する。十川はサチエをあたたかく見つめながら言った。
「そこまで思ってくれていたなんて、とてもうれしかったよ」
 口にしかけたフラチャコルタ・ロッソの渋く、甘酸っぱい香りがサチエの目にしみて、思わず涙がこみ上げてきた。
 七月の遅い日没が始まり、先生のほっそりした顔と白いテーブルクロスが赤く染まっていくのを、サチエは濡れた瞳で見つめていた。
 十川は今、再び松山の病院に戻ってきている。
 医療方針を巡っての小さな衝突は相変わらず絶えないらしいが、それでも少しずつ状況はよくなってきているようだ。
 二人のつきあいも変わらず続いている。
 今年、サチエは三十歳、十川は四十二歳になる。
 二人ともまだ独身だ。
 なぜ結婚しないの~
 他人は聞くだろう。しかしサチエ自身にも、それはうまく説明できないでいる。
 十川のプロポーズを待っているというわけではない。
 しかし今の正直な気持ちは、彼とのこの関係をずっと、できれば死ぬまで続けていきたいということだけなのだ。
 待ち合わせに現れた十川の姿を遠くに認めながら、サチエは〝十五歳の予感″をもう一度心に思い浮かべていた。
 この人は、私の人生にずっとかかわる大切な人…。

<終>
スポンサーサイト

[コメント]

↓コメント投稿はこちらからどうぞ

管理者のみ表示。

[Trackback]

Menu

プロフィール

佐藤あつ子

Name:佐藤あつ子
大阪府出身。奈良教育大学を卒業後、自らの「思い出の人を探したい。しかし、あまりにも料金が高すぎる」という経験から、従来のイメージを払拭した調査業者を目指し、昭和63年10月「初恋の人探します社」を創業。思い出の人探し(所在調査)をはじめ、家系図調査、企業調査など、長年培ったノウハウを元にした独自の調査方法で、判明率は90%以上を誇る。
また執筆活動においても大阪新聞に連載された「秘密のあつ子ちゃん 美人探偵・調査ファイル」のエピソードをまとめた「初恋の人、探します」(遊タイム出版)が、日本リスクマネジメント学会第3回RM文学賞を受賞。平成10年には松竹新喜劇において、同書を原作にした舞台「初恋の人探します社」(渋谷天外脚本)が上演された。
その他にも、ラジオ・テレビ出演、雑誌寄稿、起業家への創業支援や大学でのアントレプレナー養成などでの講演など、各分野において精力的に活動している。

最近の記事

最近のトラックバック

カテゴリー

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム