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おばちゃん探偵、法科大学院に学ぶ。

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Date:2005.01.21(Fri)16:45 | Category:[未分類]

秘密のあっこちゃん調査ファイル:すてきな片思い(3)

これは1994年に出版された、佐藤あつ子著「初恋の人、探します」(遊タイム出版)に収録されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。


近藤さんの通っていた高校と大学は〝プライバシー保護″のために調査拒否でした。
 彼女の知っている近藤さんの手がかりは学校だけです。「井上純一」に似ている「近藤さん」では探しようもありません。
 かなり苦労した末に彼の高校の卒業名簿を入手したのですが、卒業名簿には「近藤」という名前がないのです。
 この高校に間違いないか、途中で転校した場合も卒業名簿に載らないので、その点も確
認してみたのですが、沢村さんは「間違いなく卒業するまでいた」と断言するのです。
「おかしいなぁ」
 スタッフと一緒に首をかしげながらも、ともかく彼の同級生たちに尋ねてみようという
ことになりました。一人目、留守。二人目、引っ越し。三人目「夜遅くにもう一度かけて
下さい」という家族の返事……。
「留守ばっかりだなぁ。誰か、自営やってそうな人はいないか?」
 何げなく名簿の名前を追っていると、
「紺藤衛」
 という文字に目が留まったのです。
「これだ!」
 沢村さんは、彼の名前をずっと「近藤守」と思い込んでいたのです。
 彼女の希望で、私は〝紺藤さん″に連絡を取りました。
「突然つかぬことをおうかがいしますが、紺藤さんが高校生のころ、バレンタインデーに小学生の女の子からチョコレートをもらったというようなことは、ご記憶ございませんでしょうか?」
 十四年も前の小さな出来事など、彼は忘れているだろうな。恐る恐る聞く私に、彼は、
「ああ、ああ、そういうこと、ありましたねぇ。よく覚えていますよ」
 と答えてくれたのです。
 私はこれまでのいきさつと、彼女が会いたがっているということを伝えました。
 返事はOKでした。

〝紺藤″との再会の日が決まってからというもの、「何を着ていくか」が安希の最大の悩みのタネになった。
「やっぱりこのワンピースにしようか」「これはちょっと派手すぎるなあ」「でもこのスーツは地味すぎるし……」
 紺藤は、成長した自分を知らない。
 お嬢さまっぼく見せた方がいいのか、それとも大人の女の雰囲気の方がいいのか?友人は「ありのままの安希を見てもらった方がいい」と言うが、頭に血がのぼって冷静には判断できない。
ためしにお気に入りだった赤と黒の地にラメが入ったワンピースを当の友人に見せると、「それはちょっと派手やで。それでのうても、あんたはおミズに見えるんやから」と、すぐさま却下されてしまった。
 結局、紺のスーツに紺と白の千鳥格子のブラウスをコーディネートすることにしたのだが、いくら〝ありのまま″とはいえ、金髪に近い色に染めたこの髪の毛では、やはり具合が悪い。安希は美容院に行き、髪の毛も黒く染め直した。
 いよいよ再会の日、安希はいつもより化粧を控えめにして出かけた。さすがに緊張していた。待ち合わせの喫茶店が近づくにつれ、足が震える。
 紺藤は変わっていなかった。もう三十歳を過ぎているのに、昔のままにカッコいい。
「きれいになったね」
 紺藤は安希を見てそう言ってくれた。
「あんなに小さかった子が、こんな花になるんやなぁ」
 うれしかった。会ってくれるだけでも十分だったのに、ちゃんと大人になった自分を認めてくれた。
 しかしひとしきり昔話に花を咲かせると、喋ることもあまりない。沈黙を破るように思い切って食事に誘うと、彼も快諾してくれた。喫茶店の席を立って、道頓掘に出る。
 土曜の夕方の道頓掘は人であふれている。橋の上でたむろしている若者の群れをかき分けるようにして、宗右衛門町から御堂筋を歩いた。ぎこちない空気がふたりを包んでいた。
「話しておかなあかんことがあるねん」
 あらたまったように紺藤が切り出した。
-きた!
「実は僕、もうすぐ結婚するねん」
「ああ、そうなんですか。おめでとうございます」
 安希はショックを隠し、努めて平静に言葉を返す。断られるだろうということはうすうす感じていた。
 将来を約束している人がいて当然だ。紺藤さんほどの人がこの歳で結婚もせず、恋人もいない方がかえっておかしい……。
「今日、君に会うこと、彼女にも言ってきたんや」
「そうですか。-だったら、今日、初めてデートして、今日で別れるんやし、今夜はふたりでばぁーっと盛り上がりましょ!」
 途端に、紺藤の固さが取れたようだった。
言うべきことを言って、安希がケロッとした態度をしてくれるのに救われたのだろう。紺藤のホッとしたような、安心したような雰囲気が手に取るようにわかった。
それからは話が弾んだ。
食事のあとは、安希の行きつけのスナックで再会を祝して乾杯した。
「安希ちゃんの恋人?」
マスターのひやかすような言葉に、
「うん、今日だけね」
そう言いながら紺藤の腕を両手で取った。紺藤は笑っていた。

 再会の日以来、安希は泣き通しだった。
どこへも出かけず、部屋にこもりきりで泣き明かした。まぶたがパンパンにはれ上がり、鼻はかみすぎて真っ赤になった。涙がこんなに出るものだと初めて知った。
「もうええ加減にせなあかん」
 そう考えながらも、
「紺藤さんには二度と会えない」
 と思うと、また涙が出てくる。
一週間目になって、耐えきれず紺藤に電話を入れた。
「先日は、どうもありがとうございました」
「いえ、いえ」
 それきりふたりとも黙り込んでしまった。次の言葉が見つからない。すぐに電話したことを後悔していた。今度は安希にもはっきりわかった。
-もう絶対に電話なんかしたらあかん……。
「いい思い出をありがとうございました」
 安希はもうー度礼を言って、受話器を置いた。
紺藤の中では「あんな子もいたなあ」という、いい思い出のまま生きていたい。それにはここでふっきる方がいい。一生は長い。縁があったらまた会えるはずだ。
「元気で幸せにね」
 紺藤の最後の言葉がまだ耳の奥に残っていた。

 沢村さんと紺藤さんが再会を果たした日から十日ほどたって、突然、彼女がわが社を訪
ねてきました。
 ドアを開けて入ってきた彼女を見て、私はまたもや驚かされてしまいました。
 それは最初会った時とは違った意味の驚きでした。
 髪の毛はきれいな栗色に染め直され、前よりももっと短いショートボブになっていまし
た。そして明るいスカイブルーのスーツ-そう、春の霞がかった空のようなさわやかな色のスーツを着て、前よりずっと若々しく、とてもチャーミングに見えました。
 彼女の顔はスーツの色そのままに、輝いていました。比喩でも何でもなく、本当に輝い
ていたのです。
 彼女は、紺藤さんと再会した日のこと、その後の一週間のことを、たっぶり一時間はか
けて私に話してくれました。
「そうか、つらかったやろなぁ。でも、今の彼女は本当にきれいになったわ。長い間の思
いを、本当にふっ切れたんだなぁ」
 私は心中ひそかに思っていました。
 もともと明るい人でしたが、紺藤さんに再会する前の彼女は、過去にばかり目が向いて
いたように思えます。でも今の彼女は、はっきり未来を見ているようでした。すっきりと
澄んだ瞳をまっすぐに私に向け、前向きになった人間はこういう目をするんだという見本
のようないきいきとした笑顔を見せながら。
 彼女の報告もひとしきり済み、立ち上がりかけようとする私に、彼女は一枚の男性の写
真を出しながら言ったのです。
「それで今日来たのは、次にこの人を探してほしいんです」
 私は思わず椅子からずり落ちそうになりました。
 沢村安希さんは今、その写真の彼とうまくいっているとのことです。

<終>
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プロフィール

佐藤あつ子

Name:佐藤あつ子
大阪府出身。奈良教育大学を卒業後、自らの「思い出の人を探したい。しかし、あまりにも料金が高すぎる」という経験から、従来のイメージを払拭した調査業者を目指し、昭和63年10月「初恋の人探します社」を創業。思い出の人探し(所在調査)をはじめ、家系図調査、企業調査など、長年培ったノウハウを元にした独自の調査方法で、判明率は90%以上を誇る。
また執筆活動においても大阪新聞に連載された「秘密のあつ子ちゃん 美人探偵・調査ファイル」のエピソードをまとめた「初恋の人、探します」(遊タイム出版)が、日本リスクマネジメント学会第3回RM文学賞を受賞。平成10年には松竹新喜劇において、同書を原作にした舞台「初恋の人探します社」(渋谷天外脚本)が上演された。
その他にも、ラジオ・テレビ出演、雑誌寄稿、起業家への創業支援や大学でのアントレプレナー養成などでの講演など、各分野において精力的に活動している。

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