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おばちゃん探偵、法科大学院に学ぶ。

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Date:2005.02.02(Wed)16:36 | Category:[未分類]

秘密のあっこちゃん調査ファイル:夏の女(2)

これは1994年に出版された、佐藤あつ子著「初恋の人、探します」(遊タイム出版)に収録されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 外へ出た途端、むせ返るような空気がなだれ込んできた。特別蒸し暑い夏の午後だった。
浩二は友人の家に向かってバイクを飛ばしていた。特に約束があったわけではなく、退屈しの
ぎにはなるだろうと出てきたのだ。体にまとわりつくべっとりと湿気を帯びた不快な空気も、バ
イクを目いっぱいに飛ばしていれば少しはしのげた。
突然、背後からクラクションを鳴らされた。
「まずい!違反したかな」
驚いて振り返ると、それは、軽のバンに乗った夏子だった。
黒いノースリーブのブラウスから出した腕の白さがまぶしい。
「担当の白田さあーん!」
夏子は窓から首を出して、大きな声で浩二を呼び止めた。
「ああ、奥さん。何かご用ですか?」
「別に用はないんだけど。今日は非番なの?」
「ええ、まあ」
「何だか急いでたみたいだけど、何か大切なご用?」
「いえ、別にそういう訳じゃないんですけど……」
「そう。私、これから配達に行くとこなの。暇だったら一緒に行きません? おまわりさんと一
緒だったら心強いわ」
「…………」
「さあ、さあ。バイクはそこに置いといて、こっちへ乗って。こっち」
 夏子は助手席側のドアを開けると、シートをボンボンとたたいた。
 美人の人妻に声をかけられてボーッとなり、急かされるまま助手席に座った。まだまだうぶで
純情な青年だったのだ。夏子は浩二に向かってニコッと笑いかけると、車を発進させた。
 彼女がレストランや小料理屋に商品を納入し、すべての配達が終わるまでの二時間、ふたりはひっきりなしに喋り、笑っていた。
 夏子の話は愉快だった。相手をちっとも退屈させなかった。
 浩二は高校を卒業してすぐ警察学校へ入り、厳格な環境の中で訓練を受けてきた真面目一筋の人間だ。こんなに面白い話をする女性と接するのは初めてだった。
「楽しくて、愛婿のある人だなあ」
 浩二の周りにはいないタイプの女性だった。
 納品が一通り終り、バイクを置いてきた場所へ戻ろうとバンを走らせていた時だ。
 夏子がそれまでしていた話をさえぎって、
「今日はほんとに蒸し暑いね。配達したら汗かいて背中がかゆいわ。白田さん、背中かいて?」
 と言いだした。
-!?
 いきなりのことで浩二が躊躇していると、ハンドルを待ったままシートに背中をこすりつける。
「あー、かゆいっ。早くっ」
 浩二が恐る恐る手を伸ばすと、
「そこと違うの、ブラジャーのホックのとこ」
 今度はさすがにびっくりした。年下だと思ってからかっているのだろうか。こんな場面にどう対処すればいいか、警察学校では教えてくれなかった。迷っているうちにも夏子は「早く」とせかしてくる。
今なら「誘惑されているのかも」と勘繰るところだろうが、その時の浩二はただただ、
「おかしな雰囲気になったらどうしよう」
 とうろたえるばかりだったのだ。
一方で夏子は浩二の危倶などまったくお構いなしに、すずしい顔をして、
「ああ、気持ちよかった。ありがとう」
それきり何事もなかったように、運転を続けている。浩二の方を見向きもしない。
浩二はというと、助手席に小さくなって、一人どぎまぎして顔を赤くしていた。

 あの夏の日以来、夏子からはしばしば自宅へ招かれるようになっていた。
「独身寮だったら、ろくなもん食べてないんでしょう。食事しに来てちょうだい」
「狭い部屋の中で一人でボーッとしてても退屈でしょ。家に遊びに来て」
 夏子の家族は夫と姑、それに小学一年生を頭に娘が三人いた。
 主人はおとなしく、真面目な人だった。いつも、黙々と肉をさばいていた。姑さんも気のいい
人で、浩二が行くといつもニコニコと迎えてくれた。
 家業の湯山精肉店は亡くなった舅から継いだものだったが、ロべたで職人気質の夫になりかわり、小売り向け販売、卸し向けの営業や注文取り、それに配達まですべて、夏子が店の切り盛りをしていた。もともと明るく社交的な夏子に向いていたのだろう、湯山精肉店の評判も上々だったようだ。
 浩二が何回か湯山家へ遊びに行くようになると、今度は夏子から警察の独身寮に電話が入るようになった。
「注文を聞きにいくって出てきたから、ちょっと飲みに行かない?」
 誘われるまま、ふたりでお好み焼屋や寿司屋に出かけた。そのうちスナックにもちょくちょく
通いだすようになり、行くとふたりでかなりの量の洒を飲む。実際、夏子は浩二もたじろぐほど
の酒豪だった。
 最初は単なる「飲み仲間」以外の何ものでもなかった。
夏子とはささいなことまで意気投合していた。話していれば時間がたつのを忘れた。毎日の型
にはまった勤務の中、彼女の開放的でざっくばらんな性格に救われていたところがあったのかもしれない。
「私、浩ちゃんみたいな、コロコロした体型の人、好きよ」
当時、身長の割りには少々太っていた浩二に、そんな風に言ってくれた。昔、どこかのミスだっ
たという年上の美人にそう言われて、浩二も悪い気はしなかった。
浩二はいつしか「姉さん、姉さん」と呼んで夏子を慕うようになっていた。
何かと口実を作っては夜に家を抜け出してくる夏子を、初めは心配したものだ。
「主人も子供もいるのに、いいのか?」
「大丈夫よ。平気平気」
夏子からは驚くほど後ろめたさが感じられなかった。主婦が夜に独身男と表に遊び回るとい
ぅことに”不倫”めいた暗さのかけらもなく、堂々と浩二のとの「デート」を楽しんでいるように見えた。
 「ちょっとヤバイかな」と思っていた浩二も、そんな夏子の態度を見ると「マ、いいか」という気になる。
 そのうち湯の山や明治村などの近場へドライブに出かけるようになった。「似合うと思って」
と、服を買ってくれるようにもなった。
 夏子はまた、派出所へも頻繁に顔を出し、
「ちょっと、前を通りかかったから」
 あるいはもっと堂々と、
「白田さん、いる?」
 と言ってやってくる。
 同僚たちはニヤニヤしながら、
「おい、白田。彼女が来たぞ」
 とひやかす。
「そんなんじゃないよ!」
 ムキになって否定していたが、夏子の訪問があまりもたび重なるにつれ、浩二は先輩の一人からそれとなく注意を受けてしまった。
 それでも夏子との飲み友達の関係はしばらく続いていたのだ。
 寒い夜だった。商店街に流れるクリスマスソングと、大売出しの案内が閉店まぎわまでうるさ
いくらい聞こえていた。浩二が寮でゴロゴロしていたところに電話が入った。夏子だった。
「ちょっと、出てきて!」

 声は切迫していた。いつもの明るい夏子のものではない。
 「どうしたんだ」
 「お姑さんとけんかしてきた」
 「…それで、ご主人は~」
 「ウチの人は、何の頼りにもならないわ!」
 夏子が自分の夫のことを、そんな風笹言うのを聞いたのは初めてだった。
呼び出されて行ったスナックで、夏子は濃い水割りをあおるように飲みながら、初めて浩二に
愚痴をこぼした。
「私は、好きであの人と結婚したんじゃない!親同士が、仕事仲間だからというそれだけの理
由で、強引に話を進めて、無理やり結婚きせられたのよ!」
浩二は黙って聞いているだけだった。正直言って、こういう時にどうなぐさめればいいのか、
彼にはわからなかった。もうボトル一本は空いただろうか。浩二が「明日勤務だから」と立ち上
がりかけると、夏子はわっと泣き出してしまった。
「どうしたんだよ」
なだめてもすかしても、いっこうに泣きやまない。ポロポロと涙をこぼしながら、
「帰りたくない」
 と言ってきかない。
 その日、浩二は初めて夏子と共に朝を迎えた。
 ごく自然な流れだった。間近で見る彼女の肌は驚くほど白く、ぴったりと吸いつくようななめ
らかさがあるとその夜知った。

<続く>
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プロフィール

佐藤あつ子

Name:佐藤あつ子
大阪府出身。奈良教育大学を卒業後、自らの「思い出の人を探したい。しかし、あまりにも料金が高すぎる」という経験から、従来のイメージを払拭した調査業者を目指し、昭和63年10月「初恋の人探します社」を創業。思い出の人探し(所在調査)をはじめ、家系図調査、企業調査など、長年培ったノウハウを元にした独自の調査方法で、判明率は90%以上を誇る。
また執筆活動においても大阪新聞に連載された「秘密のあつ子ちゃん 美人探偵・調査ファイル」のエピソードをまとめた「初恋の人、探します」(遊タイム出版)が、日本リスクマネジメント学会第3回RM文学賞を受賞。平成10年には松竹新喜劇において、同書を原作にした舞台「初恋の人探します社」(渋谷天外脚本)が上演された。
その他にも、ラジオ・テレビ出演、雑誌寄稿、起業家への創業支援や大学でのアントレプレナー養成などでの講演など、各分野において精力的に活動している。

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